長野県松本市にそびえ立つ国宝・松本城。その漆黒の天守から「烏城(からすじょう)」とも呼ばれるこの城は、現存する五重六階の天守の中では日本最古の歴史を持ちます。この記事では、松本城の歴史的な背景、他の城にはない唯一無二の建築的特徴、そして訪れるべき見どころを徹底的にご紹介します。
松本城とは?「烏城」と呼ばれる理由と日本最古の天守
唯一無二の国宝五城
松本城は、姫路城、彦根城、犬山城、松江城と並び、「国宝五城」の一つに数えられる名城です。この五城の中でも、松本城の最大の特徴は、現存する五重六階の天守の中で日本最古であるという点です。
漆黒の「烏城」
松本城の天守は、下見板張りの壁が漆黒に塗られているため、白鷺城(しらさぎじょう)の異名を持つ姫路城とは対照的に、「烏城(からすじょう)」という通称で親しまれています。この黒と白のコントラストは、背後にそびえる雄大な北アルプスの山々の景色と相まって、松本城ならではの力強く美しい景観を作り出しています。

松本城の歴史:戦乱の時代から泰平の世へ
松本城の歴史は、戦国時代の永正年間(1504年頃)に築かれた「深志城(ふかしじょう)」に始まります。
武田信玄から小笠原貞慶へ
戦国時代
- 信濃の守護・小笠原氏の支城として深志城が築かれます。
- 武田信玄が小笠原長時を追い、深志城を信濃支配の拠点としました。
- 1582年(天正10年)に武田氏が滅亡すると、小笠原貞慶(さだよし)が深志城を回復し、「松本城」と改名し、城と城下町の整備に着手しました。
小笠原貞慶から石川数正へ
安土桃山時代
- 1590年(天正18年)、豊臣秀吉の家臣である石川数正(かずまさ)・康長(やすなが)父子が 城主となり、本格的な城郭と城下町の経営を行います。天守(大天守、乾小天守、渡櫓)が築造されたのは、康長の代である文禄2年〜3年(1593年〜1594年)頃と考えられています。
- これら3棟は、戦いの備えを重視した造りとなっています。戦国時代末期の緊張感を残した造り。壁には敵を攻撃するための矢狭間(やざま)や鉄砲狭間(てっぽうざま)が設けられています。
松平康長や水野氏など松本藩の藩庁として機能
江戸時代
- 1633年〜1638年(寛永10年〜15年)頃、辰巳附櫓(たつみつけやぐら)と月見櫓(つきみやぐら)が増築されました。これらは泰平の世になってから造られたため、優雅な意匠で戦の備えがほとんどありません。月見を楽しむための開放的な空間であり、天守に月見櫓が付属する造りは日本で松本城だけという大変貴重な特徴です。
- これにより、松本城の天守群は、戦国時代末期と江戸時代初期の異なる時代の建築様式が複合した複合連結式という珍しい構成となりました。
廃藩置県後
近現代
- 明治時代初期の廃藩置県後、城の建物は払い下げや取り壊しの危機に瀕しましたが、地元住民や関係者の尽力により天守は買い戻されました。
- その後、天守の傾きなどを修理するため、明治の大修理(1903年〜1913年)が行われました。
- さらに、1950年(昭和25年)から5年間かけて昭和の大修理(解体復元修理)が行われ、現在の姿に至っています。
- 1936年(昭和11年)に旧国宝に指定され、1952年(昭和27年)には文化財保護法に基づく国宝に指定されました(現存する国宝五城の一つ)。
松本城の見どころ徹底ガイド
a. 迫力満点の天守内部
天守内部の見学は、松本城の歴史と構造を体感できる貴重な機会です。

急な傾斜の階段(最大約61度)は天守内部の「登城の厳しさ」を味わえる。防御思想を最も体感出来るだろう。
- 急な階段(最大約61度!):天守の最上階へ上る階段は、身の危険を感じるほどの急勾配です。これは防御を意識した造りであり、当時の武士たちが戦に備えていた緊迫感を伝えてくれます。
- 鉄砲狭間と矢狭間:天守の壁には、外部からの攻撃に備えるための小さな窓が開けられています。最下階では特に、戦のための設備が確認できます。
- 二階の「武者走り」:天守の二階には、武士が走り回って攻撃や防御を行うための広い空間が残されています。
b. 朱色の月見櫓
天守の南東側に位置する月見櫓は、その鮮やかな朱色が目を引きます。朱色の高欄(手すり)が巡る開放的な空間は、平和な時代を象徴しています。ここで歴代藩主が月を眺め、宴を催した優雅な姿を想像してみてください。

c. 太鼓門と黒門
本丸に入る重要な門である黒門や、時を知らせる太鼓が置かれていた太鼓門も見どころです。特に太鼓門の石垣には、運搬にまつわる伝説を持つ巨大な石「玄蕃石(げんばいし)」を見ることができます。
・黒門

・太鼓門と玄蕃石

松本城の観光時間
松本城を観光する際の所要時間は、目的と混雑状況によって大きく異なります。
主な所要時間の目安は以下の通りです。
天守内部の見学時間(必須)
| 混雑状況 | 天守内観覧の所要時間(待ち時間含まず) |
| 空いている時(平日など) | 約30分〜45分 |
| 平均・やや混雑時 | 約45分〜60分 |
| 混雑時(土日祝、繁忙期) | 約60分以上 |
天守内部は階段が非常に急で狭いため、人の流れが滞りやすく、混雑時は階段の上り下りだけで時間がかかることがあります。展示物をじっくり見たい場合は、さらに時間が必要です。
トータルの観光所要時間(目安)
松本城全体の敷地を巡る場合は、以下の時間を確保することをおすすめします。
| 目的 | 所要時間(天守待ち時間除く) |
| 天守登閣を含む標準コース | 約1時間半〜2時間 |
| 公園・堀の散策のみ | 約30分〜1時間 |
| 松本城と周辺(松本市街など) | 半日〜1日 |
アクセス・インフォメーション
所在地:〒390-0873 長野県松本市丸の内4−1
電話番号:0263-32-2902
アクセス方法:松本城へのアクセスは、JR松本駅を中心に非常に便利です。
JR松本駅から(電車・バス利用)
| 移動手段 | 経路・所要時間 | 備考 |
| 徒歩 | 松本駅お城口(東口)から約15分 | 駅前の大通りを直進するルートです。 |
| バス | タウンスニーカー(周遊バス) 北コースに乗車し、「松本城・松本市役所前」で下車。 | 所要時間は約10分。運行ルートを確認してください。 |
| タクシー | 松本駅から約5分 |
車でのアクセス
- 長野自動車道
- 松本ICから松本市街地方面へ向かい、約20分。
駐車場について
松本城には専用の駐車場はありませんが、周辺には複数の市営駐車場があります。
まとめ:松本城が伝える日本の城の変遷
松本城は、平地に築かれた平城でありながら、三重の堀を巡らせた堅固な防御構造を持ち、さらに背後の北アルプスの山並みが美しい借景となっています。
戦国時代の緊張感と江戸時代の優雅さが同居する唯一の天守建築は、日本の城郭建築の変遷を今に伝える貴重な文化遺産です。長野県を訪れる際は、ぜひこの歴史と美しさを兼ね備えた国宝・松本城を訪れ、その魅力を全身で感じてみてください。


