新幹線からも見える美しい姿で「東海の名城」と称される静岡県の掛川城。
ただ美しいだけでなく、戦国の激動を生き抜き、現代に蘇った奇跡のお城です。
特に、日本初の本格木造復元天守と、全国に数箇所しか残っていない貴重な現存の城郭御殿は必見です。この記事では、掛川城の歴史から、訪れるべき見どころまで、余すところなくご紹介します。

蘇る「東海の名城」!掛川城に秘められた戦国ロマンと一豊の決断
【戦国初期】今川氏の野望と「雲霧城」伝説
掛川城の歴史は、室町時代、駿河の大名・今川氏が遠江進出の野望を託して築城したことに始まります。
歴史が最も大きく揺れ動いたのは戦国末期。今川義元の嫡男、今川氏真が、勢いを増す徳川家康に攻め込まれ、この城に籠城しました。約半年にも及んだ過酷な攻防戦こそが「掛川城の戦い」です。
このとき、城内の井戸から立ち込めた霧が徳川軍の目を欺き、城を守ったという伝説が生まれました。この逸話から、掛川城は「雲霧城(くもきりじょう)」という神秘的な別名を持つことになります。そして、この戦いの終結をもって、戦国大名としての今川氏は歴史から姿を消しました。
【豊臣時代】山内一豊による大規模改築
次に城の運命を託されたのは、豊臣秀吉の家臣、山内一豊でした。
一豊は、かの有名な妻・千代の「内助の功」とともに名を残した人物です。彼はわずか10年足らずの在城期間(豊臣政権下)で、城郭を大規模に改修しました。威風堂々たる天守閣や大手門を築き上げ、城下町も整備。この近世城郭への進化こそが、掛川城を「東海の名城」へと昇華させたのです。
【関ヶ原前夜】一豊の決断と「居城献上」のドラマ
そして訪れる、歴史の分水嶺・関ヶ原の戦い。
1600年(慶長5年)、徳川家康が上杉討伐のために東へ向かうという緊迫した状況下で、掛川城主であった一豊は、歴史的な決断を下します。彼は迷うことなく家康にいち早く忠誠を示し、自身の居城である掛川城を献上することを申し出ました。
この献身的な行動は家康の信頼を完全に勝ち取り、東軍の勝利後、一豊は土佐一国(現在の高知県)という破格の恩賞を得て、一気に20万石を超える大名へと大出世を遂げました。このドラマチックな出来事は、司馬遼太郎の『功名が辻』でも主軸として描かれています。
【近現代】大地震による倒壊と現代への復活
その後、江戸時代を生き抜いた掛川城でしたが、幕末の1854年、安政の大地震によって天守は惜しくも倒壊します。再建されることなく明治の廃城令を迎え、その雄姿は一度失われてしまいました。
しかし、この波乱万丈の歴史を経て、現代に蘇った掛川城には、武将たちの知略と信念、そして市民の情熱が確かに息づいています。 (※現在、掛川城の天守は日本初の本格木造復元天守として、その姿を現代に伝えています。)
【令和時代】蘇る「東海の名城」!掛川城の天守閣
令和5年(2023年)3月に掛川城のシンボルである天守閣が、令和4年(2022年)6月から実施されていた大規模修復工事を終え、再びその美しい姿を見せています。
この工事は、平成6年(1994年)の木造復元から約30年が経過し、目立ってきた経年劣化を修復・保全することが主な目的でした。
※ 修復工事は令和5年(2023年)3月をもって完了し、足場が取り外され、天守閣の美しい姿が再び公開されています。
修復工事の目的と箇所
| 目的 | 修復箇所 | 劣化した部分 |
| 景観の維持・保全 | 漆喰壁(しっくいかべ) | 剥離、ひび割れ、黒ずみ(黒墨) |
| 耐久性の確保 | 廻縁(まわりえん)・高欄(こうらん) | 腐食、木材の退色(黒塗り部分) |

筆者は2022年(令和4年)8月に訪城したが修復工事中でした。

掛川城の最大の特徴|木造復元天守と現存御殿
現在の掛川城は、市民の熱意によって見事に蘇りました。掛川城の最も大きな魅力は、この復元された姿と、奇跡的に残された建造物との対比にあります。
日本初の本格木造復元天守
1994年(平成6年)に、掛川城の天守閣は日本で初めての本格的な木造復元として再建されました。鉄筋コンクリート造の復元天守が多い中、当時の工法を再現した木造天守は、木のぬくもりと歴史の重みを肌で感じさせてくれます。
内部は、急な階段や柱など、当時の造りが忠実に再現されており、最上階からは掛川の街並みや遠くの山々を一望できます。天気が良ければ、遠くに富士山を望むことも可能です。
国の重要文化財「二の丸御殿」
天守閣の足元に位置する二の丸御殿は、安政の大地震後に再建された建物です。この御殿は、京都の二条城などと並び、全国にわずか4箇所しか現存していない貴重な城郭御殿として、国の重要文化財に指定されています。
藩主の住まいや藩政を司る役所として使われた格式高い空間は、当時の武士の暮らしぶりを今に伝えています。畳が敷き詰められた広間や、庭園を望む縁側は、まさに時代劇の世界に迷い込んだような感覚を味わえます。

掛川城のその他見どころ
掛川城の魅力は天守と御殿だけではありません。
- 霧吹井戸: 天守台の脇にある伝説の井戸。徳川家康の攻撃を退けたという神秘的な物語に思いを馳せることができます。
- 太鼓櫓: 城下に時を知らせた櫓。美しい白壁が特徴的で、天守とのツーショット撮影におすすめです。
- 大手門: かつての城下町への入り口。重厚な門をくぐると、気分はすっかりお城の主です。
1.霧吹井戸

2.太鼓櫓( 天守の右側)

3.大手門

掛川城へのアクセスとベストシーズン
掛川城は、東海道の要衝という歴史的背景を持つため、現代においてもアクセスが非常に便利な場所にあります。
住所: 〒436-0079 静岡県掛川市掛川1138−24
電話番号:0537-22-1146
アクセス方法
| 交通手段 | ルート | 所要時間(目安) |
| JR新幹線・在来線 | JR東海道新幹線・東海道本線 掛川駅 | 徒歩 約7分 |
| 車(東名高速道路) | 東名高速道路 掛川IC | 車で 約10分 |
特に新幹線が停まるJR掛川駅から徒歩圏内という好立地は、遠方からの観光客にとって大きな魅力です。東京や大阪方面からも、日帰りでの訪問が十分に可能です。
ベストシーズン
掛川城を訪れるのにおすすめのシーズンは、その美しい景観が際立つ「春」です。
| シーズン | おすすめの理由 |
| 春(3月下旬~4月上旬) | 桜と天守のコントラストが最高に美しい季節です。城の周辺には桜が咲き誇り、白く輝く天守と満開の桜の競演は、息をのむ絶景です。夜にはライトアップも行われ、幻想的な姿を楽しめます。 |
| 秋 | 涼しい気候の中で、散策に最適です。木々が色づき始める時期もあり、落ち着いた雰囲気の中で歴史を感じることができます。 |
歴史のロマンと、日本の伝統建築の美しさを堪能できる掛川城。ぜひ、あなたにとって最高のシーズンを選んで訪れてみてください。


