岡山城(烏城)の真の魅力は、天守閣の「外」にあります。戦災を免れた本物の櫓、時代ごとに地層のように重なる石垣、そして城主の威信をかけた巨石。 岡山城の「石と門と櫓」に刻まれた歴史の断片を紐解きます。
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建築の常識を覆す「不等辺五角形」の天守台

岡山城の土台は、全国でも極めて珍しい「不等辺五角形」をしています。
- 歴史の背景: 築城主・宇喜多秀家が、もともとあった「岡山」という丘の地形を最大限に活用し、東側を流れる旭川のラインに合わせて石垣を築いた結果です。
- 見どころ: 天守閣の北西側から見上げると、その歪で鋭角な「角」の造形美が最もよく分かります。歪な土台の上に巨大な天守を垂直に建てた当時の執念を、じっくりと観察してください。
400年前の空気に触れる「2つの現存重要文化財」
江戸時代初期からそのままの姿を残す、必見の「本物」です。

月見櫓(重要文化財)
- 「戦」と「雅」の共存: 城外側は「石落とし」を備えた厳格な要塞ですが、内側はお月見を楽しむための開放的な「唐戸」が並ぶ風流な造り。平和な江戸時代への移り変わりを象徴する名建築です。

西手櫓(重要文化財)
- 知る人ぞ知る遺構: 宇喜多時代の面影を残すとされる、無骨で力強い造り。観光ルートから少し外れているため、一人で静かに「400年前の壁」と対峙できます。

西手櫓は岡山城から少し距離があります。
城郭の威厳を象徴する「不明門(あかずのもん)」

本丸(本段)への正門として、圧倒的な存在感を放つ大型の櫓門です。
- 名前の由来: 常に固く閉ざされていたことからその名がつきました。
- 見どころ: 鉄板が打ち付けられた重厚な門扉と、左右に続く多聞櫓の迫力。門をくぐる際の圧迫感は、おひとり様での散策にピリッとした緊張感を与えてくれます。
三代の変遷を辿る「石垣の博物館」
岡山城は、城主の交代とともに石垣が「包み込むように」拡張されました。
「石垣の博物館」比較一覧
| 時代(城主) | 特徴(積み方) | 主な見どころ | 特徴 |
| 宇喜多秀家 | 野面積み(のづらづみ) | 石垣展示室(本丸北側)の地中の石垣。 | 不揃いな天然石の重なりと、石の間に詰められた「間詰石(まづめいし)」の無骨な質感が映り込みます。 |
| 小早川秀秋 | 打込接・初期(うちこみはぎ) | 本丸西側、西手櫓周辺の石垣。 | 石の角が叩き落とされ、宇喜多時代よりも「面」が揃い始めた進化の過程。西手櫓(現存)との調和が映えます。 |
| 池田忠雄 | 打込接・完成形 | 不明門周辺の高石垣、巨大な「鏡石」。 | 人間の背丈ほどもある巨大な「鏡石」や、角の部分を長方形の石が交互に支える「算木積み」の幾何学的な美しさが映ります。 |
宇喜多秀家時代の石垣:3つの主要な特徴
野面積み(のづらづみ)の極致

自然石をほとんど加工せず、そのまま積み上げる技法です。
- 見た目: 石の形が不揃いで、表面が激しく凹凸しています。
- 構造: 大きな石の隙間に「間詰石(まづめいし)」と呼ばれる小さな平石を詰め込んで固定しています。この荒々しい表情は、再建された天守の整った外観とは対照的な「本物の古さ」を感じさせます。
「岡山」という地形の活用

秀家はもともとあった低い丘(岡山)を削り、その周囲に石垣を巡らせました。
- 不等辺五角形: 地形に合わせて無理に四角くせず、五角形に石垣を組んだため、見る角度によって天守の表情が劇的に変わります。
- 低層部の堅牢さ: 地山を覆うように石垣を積んでいるため、下部は非常にどっしりとしており、防御を重視した実践的な構造です。
掘り出された「原点」が見られる

現在、本丸の北側(石垣展示室)では、江戸時代の改修によって地中に埋もれていた「秀家時代の本物の石垣」が露出した状態で保存されています。
見どころ: 後世の池田氏による整然とした石垣と、地中に眠っていた秀家時代の無骨な石垣。この「新旧の対比」を同じ場所で確認できるのは、全国的にも極めて珍しい光景です。
小早川秀秋時代の石垣:3つの主要な特徴
打込接(うちこみはぎ)への進化

宇喜多時代の「野面積み」に対し、小早川時代は石の角や面を叩いて加工し、石同士の接合面を整える「打込接」の技法が取り入れられ始めました。

- 見た目: 宇喜多時代の石垣に比べ、表面が平坦になり、隙間が少なくなっています。
- 意図: 石同士の密着度を高めることで、より高く、崩れにくい強固な壁を作ることが可能になりました。
本丸(本段)の西側への拡張
秀秋は、宇喜多時代の本丸が手狭であったため、西側に向けて大規模な拡幅工事を行いました。
- 見どころ: 現在の西手櫓(現存重文)周辺の石垣がその代表です。
- 二重構造: 秀秋は、宇喜多時代の古い石垣を壊すのではなく、その外側に新しい石垣を積み上げ、盛り土をして面積を広げました。これを「包み込み」技法と呼びます。
突貫工事ゆえの「荒さ」と「実用性」
在任期間が極めて短かったため、装飾性よりも「防御力の向上」という実用性が優先されています。
過渡期の造形: 後世の池田時代の石垣ほど完璧に整っているわけではなく、宇喜多時代の無骨さを残しつつも、明らかに「面」を意識した積み方。中世から近世へと城郭技術が移り変わる「過渡期の姿」が映し出されています。
池田忠雄時代の石垣:3つの主要な特徴
打込接(うちこみはぎ)の完成形

小早川時代の「打込接」をさらに進化させ、石の接ぎ面を徹底的に平らに加工して積み上げています。
- 見た目: 遠目から見ると壁面が整然としており、隙間が非常に少ないのが特徴です。
- 角の美しさ(算木積み): 石垣の角(隅頭)の部分に、長方形の大きな石を交互に組み上げる「算木積み(さんぎづみ)」が採用されています。これにより、石垣のラインがカミソリのように鋭く、美しく仕上がっています。
「鏡石(かがみいし)」による威信の誇示

本丸の入り口付近や、重要な門の脇に、ひときわ巨大な石が据えられています。これを「鏡石」と呼びます。
- 意図: もはや防御のためだけではなく、訪れる者に「これほどの巨石を運べる権力があるのだ」と見せつけるためのデモンストレーションです。
- おひとり様ポイント: 不明門の近くにある巨大な鏡石は、SNSでの撮影スポットとしても最高です。自分の体と大きさを比較するような構図で撮ると、その巨大さが際立ちます。
「見せるための石垣」への変化

実戦を想定した宇喜多時代の「野面積み」が実用一点張りだったのに対し、池田時代の石垣は、城を美しく装飾する「建築美」としての側面が強くなっています。

- 垂直に近い傾斜: 技術の向上により、より高く、垂直に近い角度で積み上げることが可能になりました。
混雑を避けて「独り占め」する夜の散策

岡山城の「石」と「門」を最も美しく撮るなら、日没後が正解です。

- 夜のライティング: 漆黒の天守と白い月見櫓、そして重厚な不明門が光に浮かび上がります。

撮影のポイント: 夜の本丸広場は団体客がおらず、三脚を立てて納得いくまで石垣の凹凸や門の木目を切り取ることができます。静寂の中で歴史遺構を独り占めする時間は、おひとり様にとって至福のひとときです。

岡山城へのアクセス
岡山城へのアクセスについて、主要なルートをご案内します。
岡山駅から徒歩(おすすめ)
筆者も体験しました。街の雰囲気を感じながら歩くルートです。
- 所要時間: 約25〜30分(約1.8km)
- ルート: 岡山駅東口から桃太郎大通りを直進し、旭川の手前まで進むルートが一般的です。
路面電車(岡山電気軌道)
旅の情緒を感じられる便利な移動手段です。
- 乗り場: 岡山駅前電停
- 系統: 「東山行」に乗車
- 下車駅: 「城下(しろした)」電停下車、徒歩約10分
- 運賃: 120円
路線バス(岡電バスなど)
最も近くまでアクセスできる手段です。
- 乗り場: 岡山駅東口バスターミナル
- 系統: 岡電バス「藤原団地」行きなど
- 下車駅: 「県庁前」バス停下車、徒歩約5分
岡山城・後楽園直行バス(ノンストップ)
- 乗り場: 岡山駅東口バスターミナル1番乗り場
- 下車駅: 「岡山城・後楽園前」バス停下車すぐ
- 運賃: 160円
高速道路からのアクセス
最寄りのインターチェンジは 山陽自動車道「岡山IC」 です。
- ルート: 岡山ICを下車し、国道53号線を市街地方面(南東)へ約20分。
- 距離: 約5.7km
おすすめの駐車場
岡山城には専用駐車場がないため、隣接する公園駐車場や近隣のコインパーキングを利用します。
2025年12月の登城記
2025年12月27日、初めて岡山県に降り立ちました。 新幹線で通り過ぎることは何度もありましたが、今回は腰を据えて岡山城へ。
駅のコインロッカーに荷物を預け、街へ。バスや路面電車も便利ですが、せっかくなら街の空気や匂いを肌で感じたいと思い、自分の足で歩くことにしました。勝手に「静かな場所」と思い込んでいましたが、岡山駅周辺は人通りも多く、街全体がとても活気に溢れていて驚かされます。
お目当ての岡山城も、かなりの賑わい。 写真を撮るのには少し苦労しました(笑)。なるべく人が写り込まないよう、シャッターチャンスをじっと待つ時間は、こだわりたい派には少し根気がいります。もし完璧な一枚を狙うなら、静まり返った夜の散策がいいかもしれません。
それにしても、天守と石垣のコンビネーションは圧巻の一言です。 特にあの「不等辺五角形」のフ造形。見る角度で表情が変わる様子は、もはや芸術品。もし空襲で焼けずに現存していたら、間違いなく世界遺産レベルだっただろうな……と、つい想像が膨らみます。
実はこの城、昭和20年の空襲まで約350年間、一度も実戦を経験していません。 姫路城や松本城にも似た「戦うための道具」というよりは、「設計者の理想がそのまま形になった美しさ」が漂っているのは、そのせいかもしれません。
驚いたのは、現存する「月見櫓」と「西手櫓」との距離感です。 江戸時代から建ち続けている重文・月見櫓に、誰でもスッと手が触れられる。そのあまりの近さに、なんだかこちらが恐れ多い気持ちになってしまうほどでした。
西手櫓の方も、すぐ隣にはごく普通の有料駐車場。 国指定の重要文化財が、特別な壁で仕切られることもなく、当たり前のように日常に溶け込んでいる。この「飾らない凄み」こそが、岡山城の本当の魅力なのだと感じた旅でした。
最後に
岡山城は、黒い天守閣の美しさだけでなく、足元に眠る石垣の歴史や、現存する櫓の佇まいにこそ真価があります。これら全ての遺構をじっくりと、光の角度が変わるまで歩き尽くすなら、やはり時間の余裕は欠かせません。
たとえば、客室からライトアップされた烏城を望めるホテルを拠点にすれば、夜は歴史の余韻に浸り、翌朝は人の少ない時間帯に再び石垣の表情を確認しに行く……そんな贅沢な旅も叶います。あなただけの『再発見の旅』を、ここから始めてみませんか。


